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東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)145号 判決

一 本件登録実用新案権の帰属、特許庁における本件審判手続の経緯、本件登録実用新案の構成および本件審決の理由の要旨についての請求原因第一ないし第三項の事実は、当事者間に争いがない。

二 (本件登録実用新案の要旨について)

成立について争いのない甲第二号証(本件登録実用新案の図面および説明書を記載した実用新案公報)によれば、本件登録実用新案の登録請求の範囲の項には、「図面(別紙(一))に示すように、両側縁および両端部(2)を折り曲げて天蓋と周壁とを形成し、該両側縁の爪(4)に両端部(8)を上方に折り曲げた底板(7)の両側縁を支持せしめて成る函状鎖片(1)の両端部内に、ほぼU字形に折り曲げてその両脚部(6)の内側面をほぼ平坦に形成した各一対の連片(5)(5)の各一方の脚部をそろえて挿入するとともに、各他方の脚部を該函状鎖片(1)と腹合せに対向する両隣りの函状鎖片(1)の両端部内にそれぞれ挿入してそれら各脚部(6)(6)の内側面を常時に底板(7)の両端面を弾圧せしめるとともに、各連片(5)の折曲部を前記両端部(2)に被覆せしめることによつて多数の函状鎖片を順次に連鎖し、かつ、各両端部(2)のいずれかまたは全部にそれぞれ切欠(3)を設けて成る腕鎖の構造」と記載されていることが認められる。ところで、この記載のうち「各両端部(2)のいずれかまたは全部に切欠(3)を設け」たとの部分が、本件登録実用新案の構成に欠くべからざる事項の一つであるかどうかが本件における唯一の争点であるので、この点について考える。

前掲甲第二号証によれば、本件登録実用新案の説明書中、「実用新案の性質、作用および効果の要領」の項には、第一段に、前示登録請求の範囲の項記載の構造と同一の構造のほか、その末尾に登録請求の範囲の項に記載されていないカバー(10′)と下列函状鎖片の側壁に打ち出された突起(10)との構造部分が、第二段前半に、本件登録実用新案にかかる腕鎖の作用、従来の鎖帯の構成とこれにともなう欠点および本件登録実用新案の目的が、第二段後半および第三段に、本件登録実用新案の効果が、第四段に、登録請求の範囲の項に記載されていない突起(10)の構造の効果が、第五段に本件登録実用新案の効果の要約が、それぞれ記載されていること、そのうち、本件登録実用新案の効果の記載部分は、(一)(第二段後半)「両端部(2)および両側縁を折り曲げかつ底板(7)の両端部(8)をそれぞれ上方すなわち天蓋の方向に折り曲げ(浮上し)て弾性を具有させたから在来品のように管状鎖片の内部に別に板状の弾機を収設する工作上の煩雑と資材の消費を省きしかも該底板(7)の両端縁(9)は下方の弧状をなしてその弧状の外面によつて常に扛上されている連片(5)の折曲部を両端縁(2)によつて阻止されて移動しないから、鎖帯を伸長するときは、連片(5)はまず傾斜して底板(7)の両端部を抑圧しながら、その両脚部(6)を同時に底板(7)の両端部(8)とたがいに弾圧し合つて両脚部(6)相互間の間隙は幾分拡開するとともに底板(7)の両端部(8)も鎖帯の両外脇の方向に開張し両端縁(9)は連片(5)の内側面にそうて漸次に摺動しながら進行方向を下向に転換して緩衝するから連片(5)は外側方に押出することがなく、したがつて、摩擦抵抗は少なく、また、鎖帯の牽引程度の強弱による連片(5)の傾斜角度の大小にかかわらず、連片の折曲部は常に折曲両端部(2)によつて抑止されて外れることはほとんどないから、在来品のように伸長し過ぎることによつて連片が抜出するような危険がないばかりでなく、連片(5)の折曲部は装着中に最も他物に接触しやすい位置にあるから、本案は、この部分を折曲両端部(2)で被覆したことによつて、手触りを良好ならしめ、また、衣服のそで口に引つ掛らないようにしたのである。」(二)(第三段)「つぎに、本案は、鎖帯の長さの大小を調節するため函状鎖片(1)より連片(5)を取り出す場合には、連片(5)を極度に傾斜せしめつつその脚部(6)を函状鎖片(1)の中心線の方向に幾分もどして切欠(3)に該当させて引くことによつて、切欠(3)内より容易に抜出することができ、また、これと反対に操作してさらに函状鎖片を追加連鎖して鎖帯の長さを増加することができる。」となつていることが認められる。

ところで、登録請求の範囲の項の記載と効果の記載とを、以上認定にかかる本件登録実用新案の説明書の全記載に徴し、対比して考えるのに、右登録請求の範囲の項に記載された構造の全体から右記載の効果がもたらされ、両者は、たがいに過不足なく即応していること、さらに、右効果のうち、(二)の効果は、登録請求の範囲の項中の「各両端部(2)のいずれかまたは全部にそれぞれ切欠(3)を設け」た構造にもとづく効果にほかならないことが明らかである。さらに、本件登録実用新案の腕鎖における函状鎖片(1)は、すべて、両側縁を折り曲げこれに爪(4)を具えるほか、両端部(2)を折り曲げて、天蓋と周壁とを形成したものであり、前掲甲第二号証によれば、従来の鎖帯が「連鎖の手段において、コ字形の連片の内側に横溝を設けて、これに板発条の両端の折曲部を嵌入して連片と彎曲片とを係合することによつてのみ、鎖帯を形成したものであるから、鎖帯の両外側には常に連片の鋸歯状に突出した凹凸部が衣類のそで口に引つ掛つて、装着具合が悪く、ことに鎖帯の輪状を拡大して手を挿通する際に、連片の縁により腕面を引き掻くおそれがあるばかりでなく、また、鎖帯を牽引したときに発条の両端部が両外側に延長し、これに係合している連片も、ともに鎖帯の両外側の方向に移動し、鎖帯の両側縁に凹凸部が突出する不便がある」等の不都合があつたのを、本件登録実用新案において、右のとおりの構成を採用することにより、その欠点を除去しようとしたものであること、本件登録実用新案における天蓋と周壁の形成、ことに、両端部(2)を折り曲げて連片(5)を被覆することから、ひいて、鎖帯の長さの大小を調節するための連片(5)の着脱が両端部(2)の曲げ起こしをしないでできるよう、この両端部(2)に切欠(3)を設けるにいたつたことが認められ、この切欠(3)は、本件登録実用新案の作用効果上右のとおり特段の意義を有していることが明らかである。

以上によれば、本件登録実用新案において、「各両端部(2)のいずれかまたは全部にそれぞれ切欠(3)を設け」た構造は、その考案構成に欠くことができない重要な事項と認めるのが相当であり、結局、本件登録実用新案の要旨は、前示登録請求の範囲の項記載のとおりのものと認められる。

原告は、考案の要旨として登録請求の範囲中に記載された事項のうちには、おのずから重要な部分と重要でない部分とがあり、本件登録実用新案の場合、切欠(3)の存在は重要な部分とはいえず、考案構成に欠くことのできない要件ではないとし、それは、本件登録実用新案の出願日以前には、函状鎖片の両端部に折曲片を設けこれにより連片の脱出を防止するとともに、連片と底板(板ばね)の係止装置を不要とするような腕環が存在しなかつた事実からしても明らかであり、本件登録実用新案は、はじめてこの一連の構成を採つたところに真の要旨構造がある旨主張する。けれども、仮に本件登録実用新案の出願日以前に原告のいう右一連の構成をとつた腕環が存在しなかつたとしても、この事実からは、右一連の構成が本件登録実用新案における要旨たる構造の一部であると解しうるといえるだけであつて、それからただちに、本件登録実用新案において右一連の構成だけが、その要旨たる構造の全部であるといいえないことは、いうまでもなく、これは、前示判断のとおり本件登録実用新案の図面および説明書の記載に徴するときは、ことに明らかであるから、原告の右主張は失当というのほかはない。

また、原告は、本件登録実用新案の登録請求の範囲の項中、切欠(3)は「各両端部(2)のいずれかまたは全部に」これを設けるとした点について、切欠のない場合も十分考慮されており、切欠の存在は、本件登録実用新案において不可欠の要件とはされていないと主張する。けれども、本件登録実用新案のとおり、函状鎖片の両端部(2)(2)を折り曲げこれにより連片の脱出防止等の効果を収めようとした腕鎖においては、前示認定のとおりの作用効果を収めようとする以上、少くとも鎖帯の長短調節をすべき函状鎖片の両端部(2)(2)には切欠(3)を欠くことをえないことは、多く説明をまつまでもない。しかも、登録請求の範囲中、各函状鎖片の「両端部(2)のいずれかまたは全部にそれぞれ切欠(3)を設け」た構造は、その記載自体からみても、腕鎖を構成する函状鎖片のいずれにも、切欠(3)が全くない場合があることを示しているものと解することは、とうていできない。したがつて、原告のこの点の主張も失当である。

三 ((イ)号磁気バンドについて)

前掲甲第二号証および成立について争のない甲第三号証によれば、本件(イ)号図面および説明書に示す磁気バンドは、その鎖部分については、「(一)甲板部(3)の長手方向の両側を下方に折り曲げて側壁部(1)(1)(本件登録実用新案の両側縁に当る。以下これに準じ、対応部分をかつこ内に示す。)を形成し、さらに、両下端縁をそれぞれ内方向に水平に折り曲げて係止部(2)(2)(爪(4)(4))とした外筐体A(函状鎖片(1)、ただし切欠(3)はない。)を形成し、(二)また、その外筐体Aの甲板部(3)とほぼ同一の形状および面積の底部(4)の長手方向の両側縁をそれぞれ上方向に折り曲げて側壁部(5)(5)(両側縁)とし、さらに、その上端縁を内方向に水平に折り曲げて係止部(6)(6)(爪(4)(4))を形成し、かつ、長手方向の両端縁を上記両側壁部(5)(5)の端縁および係止部(6)(6)の端縁と少許の間隙をおいて上方に折り曲げて支持部(7)(7)(両端部(2)(2))とした内筐体B(函状鎖片(1)、ただし切欠(3)はない。)を形成し、(三)上記外筐体A内に、中央部に水平部(8)を設けその長手方向の両側部をやや上方に対称的に傾斜させてその傾斜部(9)(9)(両端部(8)(8))の端縁の中央に間隙保持用突起(10)(10)を対称的に突設した弾性体C(底板(7))を挿入し、上記内筐体B内に、中央部に水平部(11)を形成しその長手方向の両側部をそれぞれ対称的にやや傾斜させて傾斜部(12)(12)(両端部(8)(8))とした弾性体D(底板(7))を挿入しておいて、上記内筐体Bの上側に相隣在する二個の外筐体Aの各半側部を重合させるとともに、(四)上下二本の脚部(13)(14)(脚部(6)(6))を平行にしてほぼU字状に形成し、かつ、その両脚部を連結する連結部(15)を、その連結部のほぼ中央位置に段部(16)を形成して、その上下半部(17)(18)とし、その下半部(18)をやや内方に位相をずらせた連結用ピンE(連片(5))の上方の脚部(13)を、上記外筐体Aの甲板部(3)の下面と弾性体Cとの間に挿入するとともに、下方の脚部(14)を内筐体Bの底部(4)と弾性体Dとの間に両端部の四隅にそれぞれ連結部(15)の上半部(17)を外方に露出させて挿入し、それら各脚部(13)(14)の内面を常時弾性体CDの両端面で弾圧せしめ、各連結用ピンEの下半部(18)を支持部(7)(7)に被覆せしめることによつて、多数の外筐体Aと内筐体Bとを連結して形成した鎖条」の構造(別紙(二)参照)を有するものと認められる。

四 (本件登録実用新案と(イ)号磁気バンドとの対比)

(イ)号磁気バンドが本件登録実用新案における切欠(3)に相当する構造部分を具有していないことは、原告の自認するところであり、以上の認定に徴しても明らかである。そして、二の項で判示したとおり、両端部(2)(2)における右切欠(3)の部分についての構造すなわち本件登録実用新案の要旨中「各両端部(2)のいずれかまたは全部にそれぞれ切欠(3)を設け」た構造が本件登録実用新案の考案構成に欠くことのできない重要な事項である以上、これに相当する構造を備えていない(イ)号磁気バンドは、すでにこの点より、本件登録実用新案の権利範囲に属しないといわなければならない。原告がその主張を認めしめるために提出した成立について争いのない甲第五号証ないし第八号証(仮処分申請書および仮処分決定)も、そこに示された判断の経緯に徴し、以上の判断を左右させるに足りない。

五 右のとおりである以上、その余の点にわたつて判断するまでもなく、(イ)号図面および説明書に示す磁気バンドが本件登録実用新案の権利範囲に属しないものとした本件審決は、正当であり、その取消を求める原告の本訴請求は、理由がないから、これを失当として棄却することとする。

〔編註〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙(一)

本件登録第四五九八〇二号実用新案

<省略>

<省略>

別紙(二)

(イ)号磁気バンドの腕鎖部分

<省略>

<省略>

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